目次
国内における馬の飼養状況
まずは、国内における馬の飼養状況について、以下2点を解説していきます。
- 馬の飼養頭数の推移
- 馬の飼養が盛んな地域
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.馬の飼養頭数の推移
日本では馬の品種や体格に応じて競走用や繁殖用、乗馬用など、さまざまな目的で馬が飼育されています。
2023年における馬の種類別の飼養頭数は以下のとおりです。
馬の種類 | 飼養頭数(頭) |
競走馬 | 21,707 |
育成馬 | 15,201 |
繫殖雌馬 | 10,653 |
種雄馬 | 270 |
その他(乗用馬、肥育馬、在来馬など) | 26,456 |
合計 | 74,287 |
馬の総飼養頭数は近年減少傾向にありましたが、2023年には一転して増加しています。とくに競走用軽種馬に関しては年々増加しており、2023年は全体の64%を占めています。
馬の総飼養頭数は安定しており、競走馬の飼育頭数は増加傾向にある点から、馬の獣医師の需要は今後も安定的であると考えられるでしょう。
2.馬の飼養が盛んな地域
国内における馬の飼養状況を地域別に見てみましょう。
2022年の農林水産省の調査によると、馬の飼養頭数が多い上位5地域は以下のとおりです。
都道府県 | 飼養頭数(頭) |
北海道 | 26,213 |
熊本県 | 4,627 |
茨城県 | 4,452 |
滋賀県 | 3,806 |
兵庫県 | 1,977 |
なかでも北海道は、馬の飼養頭数が全体の4割を占めており、馬の飼養が盛んな地域として知られています。
馬の育成や繁殖に携わりたい方は、上記の5地域で求人を探すとよいでしょう。飼養頭数が多い地域では馬の産業が活発であり、豊富な求人が期待できます。
馬の獣医の主な仕事内容
馬の獣医の主な仕事内容は、以下の3つです。
- 診察・治療
- 病気やケガの予防
- 繁殖業務
それぞれ詳しく解説していきます。
1.診察・治療
馬の獣医が行う仕事内容の一つは、診察と治療です。診察では、視診や触診を行い、聴診器を使って心音や呼吸のチェックなど、基本的な身体検査を行います。
必要に応じて、血液検査やレントゲン、超音波検査、MRI検査などの精密検査も実施し、正確な診断を行います。また、競走馬が転倒して怪我をした場合には、迅速な応急処置が必要です。
2.病気やケガの予防
馬の獣医師は、馬の病気やケガの予防も仕事の一つです。具体的には、定期的なワクチン接種や寄生虫の駆除を行い、馬の健康を守ります。
また、馬の健康状態を把握するために、獣医師は以下の項目を確認します。
- 体温
- 脈拍数
- 呼吸数
- 目・鼻・口の状態
- 皮膚や被毛の状態
- 腕・脚・蹄の状態
- 排泄物
これらのチェックを通じて、異常を早期に発見し、適切な対処ができます。馬の獣医師は、馬が健康に過ごせる環境を整えることに貢献しています。
3.繁殖業務
牧場や種馬場で働く獣医師は、母馬の健康管理や繁殖にも携わります。母馬を飼養管理しながら、種付け、妊娠、出産までをサポートし、生まれた仔馬は離乳するまで育てます。
繁殖業務の主な流れは以下のとおりです。
- 冬~春:出産に備えて母馬を管理
- 春~夏:生まれた仔馬の管理
冬から春にかけての出産時期(1〜5月)は獣医師は多忙になります。この時期は、母馬の乳房の状態や陣痛や破水の兆候を注意深くチェックします。
春から夏にかけては、生まれた仔馬の健康管理が主な業務です。獣医師は、仔馬が吸乳や睡眠、放牧をストレスなく行える環境作りをサポートします。
馬の獣医師は、内科、外科、歯科、産科、麻酔科など、馬の幅広い知識と技術が求められる仕事です。
馬の獣医が活躍している職場を6つ紹介
馬の獣医が活躍している職場は、以下の6つです。
- JRA(日本中央競馬会)
- NAR(地方競馬全国協会)
- 牧場・種馬場
- 乗馬クラブ
- 馬専門の動物病院
- 家畜保健衛生所
それぞれ詳しく解説していきます。
1.JRA(日本中央競馬会)
馬の獣医が活躍している代表的な職場は、JRA(日本中央競馬会)です。JRAで働く獣医職は、臨床獣医職と研究職の2つがあります。
臨床獣医職は競走馬の病気や外傷の治療、予防注射、入廐検疫などの防疫業務を担当します。一方、研究職は馬の健康やパフォーマンス向上を目的とした競走馬に関する調査・研究が主な業務です。
土日の競馬開催日には、出走馬の馬体検査や、事故が発生した場合の馬の救護・診療などに携わります。
JRAの獣医職は競走馬の健康や競馬の開催を支える重要な職種です。
2.NAR(地方競馬全国協会)
地方競馬全国協会(NAR)も馬の獣医師が活躍している職場の一つです。NARは、地方競馬を支える組織であり、全国14団体が主催する15カ所の競馬場を運営しています。
業務内容は、競走馬の健康管理や病気の予防や診療だけでなく、競馬場の衛生管理やドーピング検査など、競馬の公正な運営に関わる業務も担っています。
また、地方競馬ならではの馬の品種や飼育環境への理解も必要です。地域ごとに異なる飼育条件や特性を把握することで、より効果的な健康管理や治療が可能になります。
NARの獣医師は、専門知識と地域特性を活かし、地方競馬の発展に貢献しています。
3.牧場・種馬場
それぞれ詳しく解説していきます。
牧場や種馬場は、馬の繁殖から育成までを担う場所です。ここでは、繁殖牝馬の妊娠・出産の管理が行われ、仔馬の健康管理や育成馬の成長に合わせたケアが施されています。獣医師は、母馬と仔馬の健康を守るために、細やかな観察や処置を行います。
また、牧場や種馬場では、人工授精や受精卵移植といった高度な繁殖技術に携わる機会も多いです。そのため、獣医師としてスキルアップも期待できるでしょう。
獣医師専門の転職サイト「アニマルジョブ」では、牧場の獣医師求人も取り扱っています。馬の繁殖や育成に携わりたい方は、ぜひ求人をチェックしてみてください。
4.乗馬クラブ
乗馬クラブに勤める獣医師は、乗用馬の健康管理を行っています。
主な業務は以下のとおりです。
- 定期健診
- 治療・手術
- ワクチン接種
- 防疫管理
- 馬術競技会での安全管理
- 購入馬の馬体検査
乗馬クラブで働く獣医師は、馬の定期健診や血液検査を行い、病気の早期発見に努めます。馬が怪我や体調不良の場合は、治療や手術を行うこともあります。
また、感染症予防のためのワクチン接種や防疫管理も重要な業務です。さらに、馬術競技会では馬のバイタルチェックや急な怪我の治療を担当し、馬の安全を確保します。
その他にも、購入馬の馬体検査を行い、適切な馬選びをサポートしたりもします。
5.馬専門の動物病院
馬専門の動物病院では、競走馬から乗馬まで、さまざまな馬の診療を行っています。主な仕事内容は、馬の健康診断、治療、手術などです。なかには往診専門の動物病院もあり、獣医師が直接現地に出向いて対応するケースも少なくありません。
馬専門の動物病院を開業する獣医師は、もともと競馬場や二次診療の動物病院に務めていたケースもあります。そのため、馬の診療経験を活かして、質の高い医療サービスを提供しています。
6.家畜保健衛生所
家畜保健衛生所は、家畜保健衛生所法に基づき各都道府県に設置された公的機関です。家畜保健衛生所で勤務する獣医師は、馬を含む家畜の健康と安全を守る役割を担っています。
馬に関わる具体的な業務としては、馬インフルエンザなどの伝染病予防のためのワクチン接種指導や防疫対策が挙げられます。また、馬主への衛生管理の指導や、馬の検査業務も獣医師の仕事です。
家畜保健衛生所の獣医師は、地域の畜産業全体の安全を支える重要な役割を果たしています。
馬の獣医が得られる年収
馬の獣医師の年収は公開されていませんが、JRA(日本中央競馬会)の獣医職種の年収は1060万円と高水準にあります。
一方、2023年の厚生労働省のデータによると、獣医師全体の平均年収は685.7万円です。これらの年収を比較すると、馬の獣医師の方が高収入を得られる職業であることがわかります。
馬の獣医師は、競走馬の健康管理や繁殖業務など、専門分野に特化しているため報酬が高い傾向があると考えられます。
また、馬専門の開業獣医師として独立することで、さらなる収入を得ることも可能です。開業獣医師の年収については、「動物病院を開業した獣医と勤務医の年収を比較!年収アップの秘訣3選も紹介」で詳しく解説しているので、合わせてご覧ください。
馬の獣医になるために必要な3つのスキル
馬の獣医になるために必要なスキルは、以下の3つです。
- 馬に関する専門知識
- 体力と忍耐力
- コミュニケーション能力
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.馬に関する専門知識
馬の獣医になるためには、馬に関する専門知識が不可欠です。馬の解剖学や生理学を深く理解し、馬特有の健康問題や疾患について知っておく必要があります。
専門知識を身につける方法には、馬関連の学会への参加や学会誌の購読などが挙げられます。常に最新の情報を吸収し、専門性を高めましょう。
なお、JRAのホームページには「選考の段階で競馬の知識が無くても問題ありません」と記載されており、研修や業務を通じて学ぶ機会が用意されています。ただし、競走馬の求人は少なく競争率が高いことも予想されるため、選考を突破するために自ら知識を深めておくことをおすすめします。
2.体力と忍耐力
それぞれ詳しく解説していきます。
体力と忍耐力も欠かせません。馬は大型動物であり、保定(動きを抑えること)や治療には相応の力が必要です。
また、診療は屋外で行われることが多く、悪天候や酷暑でも業務をこなさなければなりません。早朝や深夜に緊急の呼び出しもあるため、体力や忍耐力が求められます。
さらに、馬の治療効果が現れるまでには時間がかかることも多く、粘り強く向き合う姿勢も重要です。
3.コミュニケーション能力
馬の獣医は、高いコミュニケーション能力も求められます。馬の健康管理には、オーナー、調教師、ライダーなど多くの関係者との連携が必要です。コミュニケーションを円滑に行うことで、馬の状態や必要なケアについて互いが理解を深め、最適な治療計画を立てられるでしょう。
また、他の獣医師やスタッフと馬の健康状態や治療経過について情報を共有することで、チーム全体で一貫したケアを提供し、よりよい治療結果へ導きます。そのため、コミュニケーション能力は、馬の健康維持に欠かせないスキルといえます。
競走馬の獣医になるには?
競走馬の獣医になるには、以下の職場に就職するとよいでしょう。
- JRA(日本中央競馬会)
- NRA(地方競馬全国協会)
- トレーニングセンター
- 種馬場
- 牧場
まず、競馬場を運営するJRA(日本中央競馬会)やNRA(地方競馬全国協会)に入社する方法があります。ただし、JRAは新卒採用のみで、中途採用の情報はありません。一方、NRAは社会人採用を行っているため、転職を検討している獣医師も応募しやすいでしょう。
また、競走馬の生産や育成を行っているトレーニングセンター、種馬場、牧場などで働くのも一つの方法です。これらの施設では、競走馬の健康管理やトレーニングのサポートに携われます。
アニマルジョブでは、地方競馬場やトレーニングセンターなどの求人情報も取り扱っています。競走馬の診療に興味がある方は、ぜひ問い合わせてみてください。
まとめ|馬の獣医の求人は限られているので幅広い求人に目を向けよう
馬の獣医は、競馬場、牧場、動物病院など、さまざまな職場で活躍しています。しかし、馬専門の獣医師求人は限られており、転職先を見つけるのは簡単ではありません。そのため、転職を成功させるためには、幅広い求人に目を向けることが重要です。
アニマルジョブでは、競馬場や牧場以外にも、動物に関する獣医師求人を多数取り扱っています。実習可能な施設の求人も掲載しているため、実際に職場環境を確かめることもできます。転職を成功させるためにも、ぜひアニマルジョブをご活用ください。